ケイパビリティ・アプローチとは?

このアプローチは経済学者のアマルティア・セン(Amartya Sen—1998年ノーベル経済学賞受賞。現ハーバード大学教授)によって、富裕度に代わる国や暮らしのゆたかさを分析する理論として構築されました。 1980年半ば、開発施策をめぐり、どのような国際政策をとるべきか、何の平等性を指標にした発展をめざすべきか等、経済学者らのあいだで検討されました。センは「国民総生産など集合的な財に注目するだけでは、富が国民に均等かつ公正に行き渡っているかどうかはわからない」と既存の経済学の限界を指摘しました。

国の経済成長が高水準だからといって、格差や社会問題が自動的に改善、解決されるわけではありません。 今、現に経済大国と見なされる国々では、教育普及度、栄養・健康・医療・衛生状態、賃金、平均余命などの格差や犯罪や失業などに関する深刻な社会問題を抱えています。センは「国の経済成長はもちろん重要であるが、財や収入の多さで社会のゆたかさ、発展度は測定できないし、国民が幸福であるとも限らない」「人々の幸福こそが、かけがいのない最大の目的で、経済発展や効率性、資産や富はその単なる手段にすぎない。だが現実には、この目的と手段が往々にして逆に誤解されている」とけれん味なく経済合理主義を批判しています。では国際開発でどのような基本理念や尺度や指標が大事か。つまり何の平等実現に向けた取り組みが必要かという問いへの彼の答えは、「・・・できる。・・・である」という自由や能力の平等性(the equality of basic capabilities)でした。(このアプローチの入門書は、やはりセンのDevelopment as Freedomがお薦めです。)

日常生活が「・・・する (to do) 」「・・・だ。である。(to be)」といった一連の活動の連続であるとすると、「・・・できる」という自由、可能性、能力、現実的な機会が大事になってきます。個人や集団の自由、主体性・自由意思、選択肢の広さ、人間としての尊厳、人権を重視しながら「人々は・・・できるかどうか、実際に・・・できる自由(機会)があるか」を分析していくのが、このアプローチです。この理論をもとに、人々の選択の自由や機会を拡げ、生活の質を高める政策を策定し、逆にこれを妨げる政治的、法律上、社会的な障害を取り除くための調査研究も行われるようになりました。 たとえば、貧村に住む子供たちの教育水準はどうか。栄養状態や医療は、どうか。車椅子の人は健常者と同じように町を動き回れる(社会)であるかどうか。実際に、女性も選挙権、被選挙権を行使できるかどうか。個人や集団の能力、可能性、能力や可能性を拡げる機会を測り比べる時、その分析結果はおのずとその社会のゆたかさ、まずしさ、公平性を浮き彫りにします。 センの理論をもとに1990年以降、国連では国のゆたかさを示す指標を人間開発指標(平均余命、識字率・教育普及度、生活水準、女性の社会進出率などを計測したもの)として数量化し年次報告しています。

センに合流して、シカゴ大学の哲学者マーサ・ヌスバム(Martha Nussbaum)も人権や公平性、正義に焦点をあてながら、理論をさらに展開し哲学やフェミニズムに応用しています。過去20年のうちに学際研究がすすみ、現在は学会メンバーも多分野にわたり70カ国から600名を超えるようになりました。世界の行政者たちがこのアプローチを政策の策定や評価の指針として活かしはじめています。この理論がかなり注目を集め、世界各国で関連研究が行われているにもかかわらず、理論の応用化はあまりはかどっていません。人びとのケイパビリティや生活の質を数量化し計測するのは容易なことではありません。また社会の「発展」や「ゆたかさ」を実際に数量化する基準やその優先順位、方法について多様な見解があり、この理論はまだ発展途中の段階にあります。さらに現時点では、緊急課題について国際的な比較研究をし、その結果を解決策に応用できるように、世界中から有志が集り協議、協働できるような操作装置やテクノロジーが不備であることも重大な問題と言えます。しかも「理論がどれだけすばらしくても、やはり実証分析に活用できないと理論は生き残っていかないだろう」という危惧やあせりも若手研究者の中にはあります。このアプローチ関連の学会に行って私が感じたのは、専門分野が分化していて、総合的なチームとして活動できにくいということでした。それに年に1-2回学会で会ったりメール交換するだけでは、物足りない。そこでやはり協働の方法やその機会を増やす必要性を感じました。

ちょうどタイミングよく情報工学の専門家たちの日々の努力、研鑽が実り最新テクノロジーという強力な味方がルクセンブルグで開発されました。これは今のところ世界でも稀で、かなり自由自在が効く優れた装置です。ですからここでは「ケイパビリティ」「能力・可能性の発展」「生活の質」「社会の豊かさ」「自由と選択肢の違い」など様々な問題について話し合っていこう、この理論を応用化して発展させていこう、それぞれ当事者の声を関連政策に反映させていこうというのが、このサイトのひとつのテーマでもあります。 このサイトでは国際会議もでき、社会科学のバーチャル実験室も作動するようになります。普段、仕事の合間にコーヒーを飲みながら同僚たちと情報交換をするように、ネット上でもさまざまな協力活動のできるコミュニティーにしたいと思っています。将来的には数カ国で同時に行うアンケート調査の結果なども、コンピューターに入力した直後に見れるようにもなります。

サイトを管理されている方はご存知でしょうが、多国語のサイトを立ち上げるのは、こんなに大変だとは思いませんでした。自分たちで「家」を建てていくような感じで、建築前の事前調査に一年かかり、それから「家」の設計や耐久性を決めたり、なんといっても基礎工事に膨大な時間がかかります。現在のところ毎日、工事もはかどっていますが、「家」の完成予定図からしますと15パーセントほどしか出来上がっていません。 この「家」は建主のものでなく、共同建築していくみんなの「家」です。「家」造りが進むにつれ、ここに立ち寄っていく方や泊まっていく方も増えていくことでしょう。みなさんのほうからケイパビリティ・アプローチだけでなく他にもさまざまなテーマを提出していただいて、討論をリードしてもらえればとも思っています。みなさん、どうぞこの共同の「家」づくりにご協力お願いいたします。

コメント

nice post

I am used to writing articles for the journals which might be found at the pdf search engine on periodical and ebooks. Now I'd like to write for blogs, how can I do that?

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