気候危機 I

ビデオを見ると、その人は泣いているようだった。屈強そうなアメリカ人記者は、アルピニストでもある。

あのハワード・ジンに「すばらしいジャーナリスト」と言わしめたダー・ジャメイルが、聴衆の前で声をつまらせ涙ぐむのは、やや異様なことに思えた。イラクなど数々の紛争地域に赴任していたこの従軍記者は、トラウマがあるのだろうか。見ている側の私が戸惑った。

環境と気候の非常事態の真相を見きわめるために、アラスカ山脈を起点とし、アマゾンの熱帯林やオーストラリアのグレート・バリア・リーフにも足を運び、それぞれの専門分野の第一人者に取材を行い、多くの証言と科学的知見をもとに本にまとめた。今、地球で何が起こっているのか。その報告会で、彼は言葉を失っていた。

そして、彼の悲しみの深さを知った。それは戦争ではなく、気候非常事態による喪失、PTSDなのだ。彼は知っている。気候危機は、もう抜き差しならないところまで来ているのだと、現状の深刻さに感じ入った。

しばらく積読して、年が明けてから彼の著書 The End of Ice (New York: The New Press, 2019) を手にとった。意外なほどにおもしろかったが、第5章あたりで生気がげっそりぬけてきた。それでも読み終えるのが惜しい気がして、一章づつ、あじわいながら読んだ。

ジャメイルは「気候変動」や「気候危機」などでなく、より緊急性の高い「気候非常事態」や「気候破壊」という言葉を使っている。岳人でもある著者の取材旅行は、失われゆく自然境にさよならを告げる巡礼の旅でもあった。

(彼の著作を読みながから、中村哲先生の「アフガニスタンでは、金がなくても食っていけるけど、雪がなくては食ってはいけないという諺がある」という逸話を思い出した。氷雪を失うということは、まさに命の水を失うということ。アフガニスタンの諺は、一般化できる真理であると思う。先生が昆虫観察者であったことも、また興味深い。生態系の適切な機能に不可欠な虫が消滅すれば、人類も絶えてしまう。)

本の要点を、おさえておきたい。

永久凍土層・氷床の融解:積雪は木に良い。雪消えで、以前は生息できなかった高山帯に、木々が急速に生長するようになる。その木々の植生が、高山帯の下方である亜高山帯の植物相の消失をまねき、そこに住む動物、鳥、蜂、蝶をも消失させる。結果的に、高山における生物多様性の衰退、消失が起きる。地球の温暖化で、高山に木々が生い茂るようになると、森林火災も発生しやすくなる。 ひいては、亜高山帯で大きく伸びた木々が土に貯えた水湿を吸いあげ、河川を枯渇させる。さらなる大きな森林火災リスクが高まる。

2030年までには、アラスカの氷冠はほぼ消失する。

樹林帯と干ばつ:気候が暖かくなるほど、木は伸びにくいという科学的な発見にいたる。世界的に降水量が増えるにつれ集中豪雨も増えるが、木は余分な水分を貯留できず、そのような増水は樹木の助けとはならない。それどころか、気候変動により干ばつなどの頻度が増すため、木には有害となる。

全て繋がっている:2016年の研究。干ばつ、熱波、森林伐採、および虫の異常発生などにより、北米で多くの木が大量枯死すると、シベリアの森林にも悪影響を与えることが確認されている。地球上のすべてのものが、大気を介して有機的につながっている。ある場所での環境変化が引き金となり、別の場所で気候変動としてはねかえる。

グレート・バリア・リーフ:サンゴ礁の白化現象。サンゴは深刻な死滅の危機にある。

CO2とアマゾン:健全な熱帯雨林は、大気からCO2を分離回収する。しかし、干ばつ、山火事、人為的火災、森林伐採などで熱帯林の質が劣化すると、蓄えてきた二酸化炭素を逆に放出するようになる。アマゾンは遠からず、吸収した以上の多量の二酸化炭素を定期的に大気中に放出するようになる。

2°C目標とパリ協定:1965年以来、アマゾン研究に励んできたトーマス・ラブジョイ博士の証言。平均気温上昇を2度以内に抑える目標は、達成できそうな制限を都合よく設けただけで、科学的論拠のあるものではない。生態系にとって2度は高すぎる。実際に、破局的な状態を回避できるという保障はない (発言はパリ協定以前のもの)。

現在、多種の生物種の絶滅が起きている。薬剤は、アマゾンの自然から来ているものが多い。アマゾンでは、恒常的に新種の動植物が発見されている。その生物多様性、珍種・稀種の宝庫が、人類存続の基盤であることを知らない人が多い。別の学者は、人間の自然からの遊離が気候危機の要因であると言及している。

海洋の酸性化・海洋生物の減少と海洋酸素の欠乏:オーストラリア・米国の共同研究チームの報告。海洋に吸収されている二酸化炭素の排出量は、すでに海洋食物連鎖全体を脅かすほどに増大している。別の報告書では、現在の海洋の酸性化は、5600万年前に起こった大量絶滅の時よりも10倍早い速度で起こっていると警告している。

海面上昇・海岸浸食の脅威:沿岸域に住んでいる人は、すぐに高台に移住するのが望ましい。(私がまず思うのは、関西空港)すでにマイアミでは、返済期間30年の住宅ローンは組めない。特筆すべきは、原発の水没の危険性。

崩壊:異常気象と地球生態系の崩壊。人間の活動がために、地球の気温は上昇している。さまざまな要素が加味され、連鎖反応がはじまる危険性がある。現在6回目の大量絶滅が進行中にある。

この本は、昨年のアマゾンやオーストラリアの森林火災の前に発行された。あれから地球環境はさらに変化している。永久凍土層が溶け、そこからメタンなどの温室効果ガスが大量に放出されれば、ものの数分で地球の温度が上昇する。

「危機が迫りつつある」というのは、まだ時間的に猶予があるかのようにふるまい、平常どおり日々を営むための経済・政治的なねらいであって、科学的には「時すでに遅し」というのが、大方の信頼できる研究者の見解のようだ。学術論文が査読をへて掲載されるまでには、かなりの時間がたっている。国連の報告書なども、そのような論文をもとに書かれているため、かなり保守的かつ楽観的な見積もりである。

気候危機というのは、政治危機でもある。危機意識は必ずしも低くはないが、まだどこかで現実を否認するソフトなディナイアリズムは、私自身も含め、多くの人に見受けられる。流行病や、異常気象、大規模な干ばつなどと共に、水などの資源をめぐる紛争や貧困はさらに悪化し、混迷を深めるかもしれない。希望をもっても結果はあまり期待できない。なんらかの対処により、これから良くなるという気休めや幻想は、捨てたほうがよい。精神に変調をきたす人もいるだろう。それでも(気候)正義を。自分たちにできることに実直に尽力するしかない。人事を尽くそう。

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