環大西洋貿易投資連携協定(TTIP=米欧版TPP)に関する公聴会

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Chambre des Députés
Luxembourg

Chamber of Deputies of Luxembourg - Courtesy: Wikimedia Commons

Picture taken by Ex13. Licensed under Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0
(CC BY-SA 3.0)

7月11日。ルクセンブルグ(代議院)で、環大西洋貿易投資連携協定に関する公聴会が開かれました。会合はテレビ中継され、録画はネットでも見れます。

環太平洋のTPPと環大西洋のTTIP(またの略をTAFTA)。日本人でヨーロッパ市民でもある私には、両方とも気がかりです。両協定には対アメリカという共通項もありますから、海千山千の欧州人たちがどう渡りあうのか非常に興味があります。

13日日曜日、会合録画を夫と一緒に見ました。中継を6時間も見るのは、結構きついだろうと思っていたのですが、休憩を挟み(午後2時~9時過ぎまで)見入ってしまいました。ディベートは、思いのほかおもしろかった! 参加者全員が用意周到で、時には声をあらげながら興味深い論戦を展開しています。

欠かせないのが。正月にはモチ、商談/悪巧みには古だぬき。ルクセンブルグの鉄の女性、正義感に燃える市民団体の代表者等々。公聴会の内容をまとめましたので、日本の方たちにもぜひ参考にしていただきたい。

会合/発言内容大要

  • 公聴会は、午前9時から午後4時まで(昼休み1時間)続いた。午前中の討議はフランス語、午後はルクセンブルグ語、ドイツ語、英語も加わった。
  • 欧州委員会の交渉官 (Marc Vanheukelen)が、協定目的(経済成長・経済支配力拡張戦略・ジオポリティックス)を述べ、今開かれた機運に乗じなければ経済統合のチャンスを逃すと主張。
  • さらに交渉官は、協定に関する懸念(透明性の欠如・ヨーロッパ的ライフスタイルの放棄・大企業へのさらなる贈り物ではないか)についても述べた。
  • 昨年の7月よりTTIP交渉が開始。7月14日からブルッセルで、第6回通商協議が再開。
  • 現在ECは、14の二国間・多国間協定を交渉中。
  • その後、欧州議会議員、ルクセンブルグ議員、市民団体からの質問・批判が続く。Marc Vanheukelen氏らが答弁。批判はTPPの問題と多々重なる。
  • ルクセンブルグ外務省(Léon Delvaux)。交渉条件は米国と対等であること。
  • ルクセンブルグ政府の見解。交渉から排除する項目は(1)遺伝子組み換え作物、牛の成長ホルモン(2)国や自治体による公共事業・サービス。さらに持続可能な開発の理念を満たさないもの。
  • ルクセンブルグ政府の見解(2)。ベネルクス三国(ベルギー・オランダ・ルクセンブルグ)が、通商に関する欧州議会の命令書(交渉対象・非対象項目、各項目の詳細指示など)の一般開示請求を発案。現在、三国代表が、情報非開示をよしとするEU諸国を訪問し、開示への説得活動を検討中。
  • 秘密文書である命令書を、公聴会出席者のうち4名がすでに所持。経緯は明らかでないが、罰されることはない(日本のように特定秘密保護法がないですもんねえ)。
  • 米国代表(Paul Schonenbuerg)は、在ルクセンブルグ23年になるという男性。
  • 2050年には、世界人口が約100億人になるといわれる。この地球を守るための法律や規制をつくるのでなく、さらに規制を緩め規則や制限をなくすということ自体、哲学的におかしな話だ(Claude Turmes欧州議会議員)。
  • van Heukelen氏は、国レベルの批准について、はぐらかしたのではないか。(交渉中は、各国レベルでの承認が必要と思わせながら、最終的には欧州議会と欧州理事会が各国の承認過程をとばし、だし抜くような怖れががあるのではないか)米国大使館のリーディング・ルームで非公開文書を閲覧するという時点で、すでに心理戦に負けているではないか。ルクセンブルグ政府もユンケル氏(前ルクセンブルグ首相)も、ISD(投資家対国家紛争解決)条項には興味はない(Claude Turmes欧州議会議員)。
  • TTIPのほかにも、知的財産や著作権に関するTISAという協定が交渉中(Laurent Mosar議員)。
  • 慣行というが、交渉文書もないのにどこが透明性かと一喝。このような民主的決定過程を侵害する交渉は、市民の価値観を反映していない。通商項目は一分野でも精査するのが困難であるのに、命令書は広範すぎる分野をカバーしている。この経過を監視する人がいない。決定は、一括でイエスかノーかしかない(Blanche Weber, movement écologique)。
  • 食の安全や持続可能な開発など望めない。用語の定義などでも、欧米間で認識のくい違いがある。交渉官ははぐらかすばかりで、何もはっきり答弁しないではないか(Bob Schmitzルクセンブルグ消費者同盟)。
  • 雇用拡大が期待できるというが、アルセロール・ミタル社の経営難などの例をあげる。当協定は米国大企業のための秩序構築を目指すものだ。米国社会批判(約10年前のイラク戦争。NSAの諜報活動、欧州市民の情報収集)協定では国家主権は守れない(Claude GrégoireストップTAFTA)。
  • 当協定は欧米だけでなく、新興国にも有利だといわれるが。過去の自由貿易を歴史的に分析してもそうとはいえない。多くの新興国は(前植民地であるが)その富を、先進工業国に奪われてきた。見返りもなしに。このような国々は保護貿易主義の適切な関税障壁などにより自国産業を保護し、まずしさから脱することができた。社会・環境等の問題を考えない自由貿易はかなり危険である。欧米が新興国に対し圧力をかける単なる道具となる。欧米が新世界秩序を推しすすめるのは、ナチイズムと似ている。
  • WTOドーハ・ラウンド交渉の失敗後、EUも米国も二国間協議に頼らざるをえなくなった。EUは貧窮国との協定において、フェアではない。これらの国々に、多国籍企業のための関税率削減や市場アクセスや重要品目の取り扱いを強いながら、EU企業は法的に紛争解決や知的財産権の面でも手厚く保護されている。
  • 自国の利益を保護しきれない国に対し、多くの企業がISD条項を発動するようになっている(Jean HussストップTAFTA、前議員)。
  • 個人通信・情報の保護に関する協定で、アメリカは一方的で相互性・相利を認めず、そのような協定には調印しなかった(Viviane Reding欧州議会議員)。
  • 通商内容を明らかにしなければ、批准前あるいは欧州議会の審議以前に不成功に終わるだろう。開発途上国のバナナの売り上げで不利益を被ったとして、EUが訴えられた前例などにもふれる(Charles Goerens欧州議会議員)。
  • ルクセンブルグの国レベルでもEUレベルでも、交渉に関する書類は受け取っていない。透明性が高いとは全くいえない。ファイナンシャルセクターの取引は、TISAで話し合われている。それに関する情報は、TTIP以下。
  • 万一合意が成立したとしても、米国の多国籍企業がその合意原則に沿い採用しているかどうか、誰が監視・監督するのか。米国の企業は、国際財務報告基準(IFRS)やバーゼル合意などを適用してないではないか。
  • キッシンジャーは かつて「アメリカには永続的な友人も敵もない。あるのはアメリカにプラスかどうかの利だけだ」と言い放った。他国を私利の道具と見なす米国を警戒(Marc Hemmerling 銀行家)。
  • ISD(投資家対国家紛争解決)条項は受け入れられない。それに対し、交渉官はスウェーデン企業が投資先のドイツ政府を提訴した例などをあげ、毒素条項はすでに発動していると述べた。国際仲裁機関にふれる。 
  • 向こう10年の経済効果の試算など(1300億ユーロの利益?)しても、貿易がもたらす気候変動による経済被害の方がよほど大きい(Blanche Weber)。
  • 自由貿易というより、差別貿易と呼ぶべきだ。通商で得をする国があるとすれば、必ず損をする国がでる。途上国などが大きな被害を被る(Marc Keup, Association de Solidarité Tiers Monde)。
  • 当協定は、アフリカやアジアなどの南側諸国に大きな打撃。人権や社会規範、公的医療や医薬品の利用などにも大きく影響。倫理的な面を強調(Norry Schneider, Caritas)。
  • TTIP参加はEUの不利に働く。全く国益にならない。撤退すべきだ。
  • GDPの数字でなく、社会的な面、社会保障・雇用などに注目すべき(Jean-Claude Reding, OGBL)。
  • 米国の(比較)劣位の例をあげるとするなら、社会保障全般ですよ(ヨーロッパより軽く100年は遅れているよ、といわんばかり。)欧州の銀行等は、十分に保護されてないというが、破綻したリーマン・ブラザーズはアメリカ企業じゃないですか。それが今も世界経済に大影響を与えている。当協定はアメリカ企業の利益のためだけ。何もヨーロッパの得にはならない (Jim Schneider, ALEBA銀行労組)。
  • 米国は科学的という名目で、食品表示義務を撤廃しようとしている(Bob Schmitz)。
  • アメリカは、京都議定書もリオの生物多様性条約にも加わっていない。食の安全性がなければ、ボン・アペティ(どうぞ召し上がって)といわず、運試しの賭けでボン・チャンス(がんばって、幸運を祈ってますよ)と言わないといけなくなる(Claudio WalzbergストップTAFTA)。
  • 欧米間で、規制基準の調和はむずかしい。
  • ルクセンブルグは大学を設立したが、米国の私立大学が参入すればどうなるのか。
  • 経済効果の試算は、あくまでも平均値だ。ルクセンブルグは中小企業が多い。
  • その後、論議は延々と続いた。グリーン・ピース、農業分野の代表など環境、社会保障、生活の質、平等、倫理についての議論も目立った。(午後の部のルクセンブルグ語と独逸語発言は、私は少ししか分かりませんでした。あしからず)

私の雑感・解説・分析

  • 聞くところによると、ブルッセルのTTIP推進派は200団体以上にのぼり、反対派に雇われたのはなんと2団体。前者の予算は10億ユーロ以上、後者は200万ユーロほどとか。「ロビー活動じゃなくて、買収そのもの」と知人。
  • 協定は経済的利益や勝率ばかり、強調されますが。
  • 議論の真偽を確かめるには、「誰が貿易をするのか?」と問うといい。ここに一番、頭をつかって!!
  • 答え。貿易するのは、個人でなく世界の多国籍企業。
  • 「誰のため、何のための協定?」といえば、企業活動しやすい通商秩序を構築し、経済統合の法律を整備するため。最も効果的で最ももうかる仕組みづくりのため。
  • 経済効果は、一般市民に波及しない。
  • ブルッセルの交渉官も、立法権という言葉を強調していた。
  • TTPでもTTIPも、経済効果の即時性を強調。総額だと巨額に聞こえる効力感に要注意。試算1300億ユーロを10年で分け、それをEU28カ国で分け、それを住民一人当たりにすると20ユーロ(2700円)ほどにしかならない。
  • 試算だから、現実にそうなるとは限らない。将来、人口増加で20ユーロ以下にもなるだろう。
  • 協定の根幹には、米国がすすめてきたネオリベラリズム(新自由主義)がある。(日本の主要推進派は竹中平蔵氏)
  • 新自由主義の三本柱は、(1)規制緩和の促進(2)民営化・私有化・市場化(3)社会保障・福祉の切捨て。
  • 公共サービス(交通、公共医療保険、郵便事業、教育、水道など)の質を下げ、民営化をすすめ公共機関をつぶしていく。市場開放や経済効率や値引きをうたい、必要サービスを市場化し、同時に福利/生活の質/生活保護を切り捨てる。さらに民営化がすすむ。利益は大企業のものとして私有化され、損害・実害は市民みんなで公的補償・負担というしくみです。ボロもうけするのは一握りの人たちで、損は社会みんなでわかち合うという残酷物語。
  • 協定の究極の成果は、多国籍企業覇権。世界の不平等はさらにすすむ。
  • 「今のチャンスを逃すと」というプレッシャーは、どの国も覇権という強欲からきていると思う。
  • 一般的に「欧州的ライフスタイル」というと、最低でも年間25日の有給休暇、労働時間・解雇規制/失業保険、社会保障制度、労組などをまず連想します。前世紀の奴隷のように、または現在のアメリカのように残業代なしの長時間労働は、欧州では違法。
  • (個人的にアメリカという国にはお世話になり、恩も感じてますが)キッシンジャーの正直な言葉。そう米国にとっては、日本はトモダチでも何でもなく、単に役に立つ子分ですものね。
  • 食品表示義務でも、アメリカは憲法修正第一条を持ち出して、表示内容は企業の表現の自由だなんていいだしたりしますからね。
  • ヨーロッパ人たちがこれだけ強気でいれるのは、やはり28カ国からなる超国家EUのおかげだと感じる。米国と一対一で互角に交渉するのは難しい、という知恵からの歴史的な戦略だと思う。
  • そういう意味でも、EU将来像を見通した欧州連合の父ロベール・シューマン(ルクセンブルグ生まれ)の先見の明はすごい。日本も、中国・韓国や他のアジアの国々と強い同盟信頼関係にあれば、米国ともっと対等に交渉できたのにと、くやしい思いがする。
  • ベネルクス三国、やはり気が合うんでしょうね(内部者としての感想)。
  • 米国はEUが交渉に応じなければ、様々な嫌がらせをして圧力をかけるだろう。NSAしかり。フランスの最大銀行パリバへの制裁違反の罰金など。EUも反撃するだろう。
  • 今週、前ルクセンブルグ首相ジャン=クロード・ユンケルが、欧州委員長に就任。私たちの未来。さて、どうなるのか。

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