三つの国の国境にて

Location

Three-Country Point; Neutral Moresnet 50° 45' 16.9992" N, 6° 1' 12" E

突然、義弟が再婚するという知らせがあった。彼は、やんちゃでプレイボーイなので、来夏の結婚まで持つかは分からない。いや、彼は本気か? <神妙にお縄を受けて共暮らし> (時実新子)。「とにかく婚約はメデタイ。楽しもう」と、彼らの住むベルギーにむかった。

彼らの新居は、オランダ・ドイツ・ベルギーの三つの国境が集まった、三国点の近くにある。普段、欧州の国境を、県境のように行き来しているにもかかわらず。かつてヨーロッパや世界を制覇しようとした三つの大国が合体する一点を見ながら、それぞれの国境をひと足でとび越えながら、なぜか言いようのない興奮と感動をおぼえた。

おそらくヨーロッパ人にとって、三国点は私が子どもの頃に三国岳に登った体験と似通っているのかもしれない。

だが、島国で生まれた私には、三国点はものすごく新鮮だった。「日本もこんな地続きの国境があったら、もっと外交に長けていただろうに」と、ふと義妹となる人につぶやいたら、「ウイ(そうね)」と即答が返ってきた。

そこで今はむかし、高校の文化祭を思い出した。「もし日本海、東シナ海が隆起して、日本が地上の国境線で隣国とつながっていたら、わが国の政治、外交、文化はどうなっていただろう」と問いかける展示発表をした。準備にはり切りすぎて、当日病欠したら担任の先生が「展示会、盛況ですよ」と興奮した口調で、電話をしてくれた。

先生の名前は、外交官の父親の赴任先カナダで生まれたから、カナコさん。毎日、オートクチュールのようなエレガントなワンピースに身をつつみ、NHKのアナウンサーも顔負け、発声も鼻濁音もバッチリの滑舌で、口紅と爪は真っ赤で、黒板に黄色のチョークで高野切のように達筆な字を書く女性から、古典をならった。彼女は夏休みになるとドイツで能を教えていたので、9月に土産話を聞くのが楽しみだった。彼女のユーモアたっぷりの話や外国人とのつき合いかた、バリキャリの生きかたが、今でも私の中でやわらかい暖かさとして残っている。花畑のような高校で勉強はしなかったけど、何という幸運な出会いだっただろう。

地続きの国境のある国に住むとは、どういうことか?

EU統合の後、ヨーロッパのあちこちで、欧州連合や各国の旗が立ちならぶようになった。だが、ベルギーには住民がドイツ軍に集団銃殺されたため、90年代になるまでドイツの国旗を揚げなかった町(ディナンなど)もある。

その生々しい歴史的文脈をふまえて、若い世代が育っていく。欧州連合統一の父といわれるロベール・シューマンは、ルクセンブルグに生まれドイツで法を学び、フランスで首相となった人だが、今、私が住む町から列車ではるばるパリに通っていたという。そんな三つの国境に近い町に住んでいると、日本ではできない不思議な体験をする。

たとえば、5月8日の戦勝記念日。フランスでは祝日で、その翌日も今年はキリストの昇天のため祝日だった。ところが、敗戦国のドイツと、その占領下だったルクセンブルグは8日は祝えない。ベルギーでも法定祝日ではないが、もちろん戦争のことは忘れていない。はてなく戦争で残虐行為を繰り返してきた元・敵国同士の子どもたちが、国境を越え通勤し一緒に協力し仕事をし、あるいは結婚するようになっても、事実は変更できない。わが国の一部の人たちのように、日本の被害だけに注目したり、歴史修正主義で都合の悪い歴史を歪曲したり、隠したりするのはむずかしい。

三国点を訪れた翌日、ささやかなバーベキュー・婚約パーティーがひらかれた。ゲストは、フランス人・ベルギー人・ドイツ人が主で、20人ほどの参加者の中に中国人、タイ人、そして日本人の私と犬が二匹。(皆、自分の国籍と同時に、ヨーロッパ住民という共通アイデンティティーも強い)皆それぞれ共通語で話し合って、パーティを楽しんだ。中国人女性と長らく談笑していたら、「日中関係、悪いんじゃなかった?」とビール瓶を片手にベルギー人たちが割り込んできた。そこで、またひと時、大笑いした。犬たちも、独仏バイリンガルで、英語のフンイキもわかるようだった。犬はバイリンガルだと自覚せずに、どの言葉の指示も理解できるようだった。ヨーロッパで外国語を話し、知り合った人と機嫌よくやっていく努力をするのは、生きるか死ぬかの問題だ。

もし日本が、中国や朝鮮半島、ロシアと国境がつながっていたなら。まったく違った考え方や感じ方をする隣国の人たちと、快適に会話できるくらいの語学力やすべを身につけていただろう。老獪な外交力で活躍する人も、多いことだろう。過去には唐に渡り、アジアの賢人や書物から学んだお坊さんたちもいたではないか。アーミテージのような気色悪いおっちゃんの言いなりになり、おちぶれゆく米国一辺倒で隷従を深めるのでなく、台頭していくアジアや他の国々ともアンジョウなかよくしていかなければならない。

自国を批判する人を、反日というのではない。自国をワシントンに売るような政治家や官僚や外交官を反日というのだ。愛情がなければ、批判なんかできない。アメリカにこびへつらい(してもくれない)国防を期待するのでなく、属国でいることをきっぱりやめるべきだ。強い国づくり、国防とは、アメリカのお古の戦闘機を買い取ったり、アメリカのための基地を日本の多額税金で護るのでなく、日本の国民(特に社会的弱者)の命や生活を守ること、外交交渉をうまくやること、そのために未来の子どもたちに十分な教育をすることではないか。

最後に、カレン・ヴァン・ウォルフレン(Karel van Wolferen)「なぜ日本人は日本を愛せないのか」(毎日新聞社、1998年)を引用して終わろう。

「そして、日本がアジアで戦争を行ったことが、今日、愛国心という概念に大きな警戒心を起こさせるもととなっている。日本国民はもっと愛国心をもつべきだ、と聞いたら、非常に多くの人が震え上がるだろう。そうした主張はすぐ、軍歌を鳴らし、右翼組織内でいま流行の話題を何であれ絶叫しつつ街を走る、街頭宣伝車を連想させる。・・・こうした不幸な連想によって、日本人は、日本の現状を改善するなんらかの行動を一丸となって起こすために、愛国心に訴えるという一つの手段を、奪われてしまっている(29ページ)。」

「私はオランダを愛している。だが、私は国家主義者ではない。・・・ 言葉を取り違え、術語を無頓着に用いる悪習は、いずれ政治的に悲惨な事態を招きかねない。みずからの政治的状況を明快にとらえることができなくなるからだ。これが、日本にあてはまる。国家主義と愛国心との区別は決定的に重要である。前者はたいがい不健全であるのに対し、後者は、成熟した政治観や謙抑と完全に両立するのみならず、それらに不可欠のものとさえ言える(27ページ)。」

Bottom left picture - courtesy of Wikimedia Commons - Ahoerstemeier

Location on Google Maps - at 50° 45′ 17″ N, 6° 1′ 15″ E

Comments

Coucou Sachie,

what you wrote is a nice article, I briefly translated to TJ and we had some discussion over this point of view. I especially like this sentence : if there's no love, there won't be critics.

Some things I can never understand, why Japan are so attached to USA while denying the invasion to China and Asian countries, after all, USA is the only country that ever occupied Japan, not to mention the two atom bombs. According to my personality, i will probably choose the German way, say : yes, we did something terrible, let's talk about it and not do it again. I read an Chinese article recently, written by 白井聡 which echoes the same thing. By being attached to USA and denying the invasion and defeat, this puts Japan forever in a defeated position. Chine and USA won't let go of Japan. USA wants to ensure its superior position and China will use every occasion to stir up the hatred between two countries.

TJ mentioned the position of UK in EU, they are also an island country, thus they think they don't really fit in EU. Same situation probably applied to Taiwan, I guess. We don't have any directly adjacent neighbor, and we were never an independent county, thus it makes it difficult for us to find our position among international community. We only see three countries : China, USA, Japan. We are very narrow sighted by default.

WJ

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