ピケティの「世界不平等報告書」の概要 一部・邦訳掲載

昨年のお正月。トニー・アトキンソンが亡くなったニュースを耳にした。

ある学会会場への帰り道、バスの座席に1人ですわる彼を見かけ声をかけたことがあった。それからホテルの会場まで Luxembourg Income Study や OECDの調査について話しながら、歩いて帰ったのを思いだす。翌朝も、席につくと目の前に彼がいた。なんとも謙虚で気さくな紳士が病気を患っていたことを知り、とても悲しかった。

今年になって「世界不平等報告書」を読んだ。彼の残した仕事を、同僚・友人であるピケティと世界の仲間である100人以上の専門家たちが受けつぎ、強化を図っていた。アトキンソン(アマルティア・センもアダム・スミスも)は、経済学の根幹をささえるのは倫理だと、くり返していた。

300頁にわたる報告書を訳すのはムリなので(経済の専門家たちがもっと上手に訳されるでしょうが)。特に興味をもった2ページを訳(意訳)してみた。グラフを見ると、われわれの共通財産である「公」の富が「私」へと移動していることがわかる。現在、公の富が私物化された、国有地の格安払いさげたという問題が取りざたされている。その諸問題の背後で、種子法は廃止され(みんなの種が、誰かさんの種になり)、TPP 協定はすすみ、アベノミクスと株価バブルで大企業と富裕層はさらにうるおう一方、公的債務は蓄積し、公ひとりひとりの教育や福祉への投資は減り、公的年金も減り、政府は人々の負託にこたえられず、国力が衰えていくという日本のすがたを映す鏡のようである。

報告書はオープンソースなので(そういうところも好き)、どんどん拡散して日本の格差や貧困問題について話しあっていただけるとうれしい。


 

3.国有から私有への資本の移行が、なぜ不平等化にも影響をおよぼすのか?

経済的不平等は、おもに資本の不等な所有(私有または公有)に起因している。グラフは1980年以降、経済先進国や新興国のほぼすべての国で、特に公的資本から民間資本へと大幅な移行が進んだことを表している。国の富はかなり増えているが、富裕国の公的資本はマイナスかゼロに近い。おそらくこのような動向が、政府が格差に取りくむのを制限しているものと思われる。それが富の偏在に重要な意味合いを持つのは、確かである。

過去数十年の間に国々は豊かになり、政府はジリ貧状態に

純·国民所得と純·個人所得の比率を、政府が有する公的資本と比較してみると、国民のひとりひとりが有する富の価値について理解できる。国の富は、私有と公有の資産をあわせたものである。ふつりあいな私有財と公有財のバランスが、格差の決定的要因となっているのである。

ここ数十年のあいだに、大部分の国々で純·民間資本の上昇がみられた。1970年には経済先進国では国民所得の2倍から3.5倍だった富が、4倍から7倍にまで増えている。この増加には2008年の金融危機や、日本やスペインなど一部の国でみられたような資産バブルの影響は、ほぼなかった(図6)。中国とロシアでも、民間資本の劇的な増加があった。共産主義から資本主義へと移行した後、両国はいずれも4倍と3倍に増えている。これらの国の民間資産率は、フランス、英国、米国の水準に近づきつつある。

(図6)富裕国における民間資本の増加と公的資本の下降1970–2016

図6
注・2015年には、米国の純·公有財(または公的資本)の価値はマイナスであった(純·国民所得の-17%)。一方、純·私有財(または民間資本)の価値は、国民所得の500%であった。1970年には、純·公有財は国民所得の36%に達したが、純·私有財はその326%だった。 純·私有財は新·私的資産から純·私的債務を差し引いたものである。純·公有財は公的資産から公的債務を引いたものである。[スペイン(黄)、英国 (オレンジ)、日本 (ピンク)、フランス (赤)、米国 (青)、ドイツ (緑)における推移。いずれの国々でも次第に私的資本が伸び、その下で公的資本が縮小しているのが見える]

逆に1980年代以降ほぼすべての国では、純·公的資本(公有財から公的債務をさし引いた額)が減っている。中国とロシアにおける公的資本は、国有財の60-70%から20-30%にまで減少した。近年、米国と英国では純・公共財はマイナスになっており、日本、ドイツ、フランスではほんのわずかにプラスに転じている(図7)。よって本来ならば経済を規制し、所得を再配分し、不平等を緩和する政府の権限を制限していることは間違いない。唯一、公的資本の減少が見られない例外は、ノルウェーのような石油産出国でソブリン・ウエルス・ファンドを有する国々だけである。

(図7)公的資本の減少1970–2016

図7
[中国 (赤)、フランス (オレンジ)、ドイツ (緑)、日本 (ピンク)、英国 (深紫)、米国 (青)。公的資本の減少を示している]

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